Native Instrumentsの大ヒットシンセサイザーMassiveの後継機、皆が待ちに待ったMassive Xがついに発売となりました。
当初予定されていた2019年2月からの延期を経て、再度アナウンスされた6月に無事発売されたのは喜ばしいニュースでした。しかし発売日時点では製品マニュアルが用意されていないなど若干の不備もあり、開発スケジュールがかなりタイトだったことがうかがわれます。
ともあれ、マニュアルが無いなか手探りでシンセの機能を類推していくのもなかなか楽しいものです。この記事ではそんな手探りの延長として、現時点で筆者が理解しているMassive Xの機能について、気になる部分を中心にまとめてみました。
正式なマニュアルが出るまでのあいだ参考になればと思います。
Contents
オシレーターは2つだけ?
メインのオシレーター以外に、最大3つのサブオシレーターが使用できます。
A、B、Cが並んでいるインサート・エフェクト・セクションでOSCを選択します。選べる波形はSine、Saw、Pulseです。選んだ後はRounting画面で線をつなげていきましょう。
フィルターは1つだけ?
メインのフィルター以外に、最大3つのサブフィルターが使用できます。
サブオシレーターと同様、A、B、Cが並んでいるインサート・エフェクト・セクションでUtilityを選択します。フィルターを使うのにUtilityという名称は少しわかりにくい気もしますが、ともあれHP1、HP2、LP1、LP2の4種類が選べます。選んだ後はRounting画面で線をつなげていきましょう。
自前のウェーブテーブルはインポートできる?
Native Instrumentsの説明によれば「現時点ではできません」とのことです。将来的にできるようになる可能性もあるためそこに期待したいところです。
スタンドアロンはある?
残念ながらありません。将来的に出るのを期待したいです。
マクロコントロールは?MIDI Learnはできる?
マクロはシンセ上部に16個用意されており、それぞれがあらかじめDAWのオートメーションにアサインされています。旧MassiveのマクロコントロールはMIDI Learn機能が付いておりユーザーが自由に変更できましたが、Massive Xでは今のところできない仕様です。
PM1、AUX、PM2とは?
PM1とPM2はフェイズ・モジュレーション用のパラメーターです。ノブの隣にはモジュレーターの波形と周波数のレシオを選択する項目があります。これらを選択し、ノブを回すとメイン・オシレーターにモジュレーションがかかります。NI製のFM8を使っている人にはおなじみだと思います。
ただしメイン・オシレーターの横にあるPM1/AUX/PM2のボタンをオンにしておかないとモジュレーションがかからないので注意してください。
また、AUXも上と同様フェイズ・モジュレーション用のパラメーターですが、こちらはモジュレーターに使うソースを自分で選びたい場合に使います。
例えばNoise1をソースにしたい場合は、Routing画面でPM(AUX)とNoise1を線で結びます。こうすることでAUXのモジュレーターにNoise1が選択され、ノイズを使ったフェイズ・モジュレーションが可能になります。この時Noise1の音量スライダーを上げるのを忘れないでください。スライダーが下がっていると使えません(下記の画像では下がったままですが…)。
アルペジエーターは無い?
Performerがアルベジエーターの替わりに使えます(旧Massiveと同様)。
例として1オクターブ内で動く四分音符のアルペジオの設定を紹介します。
①P1をオシレーターのピッチにドラッグし、+12に設定します。
②P1をクリックしてUniを選択し、上部のバーを必要な長さに縮め、四分音符を選択、Editツールの横棒のものを選びます。
③Vertical Gridの値を12に設定、Snap to Gridをクリックし、アルペジオの各音を入力します。縦の各数字0〜12は12半音が対応しています。C1の鍵盤を推している場合、数字0はC1、4はE1といった具合です。
低い方の鍵盤の音が出ない。バグ?
これはPerformerのRemoteをオフにすることで解決します。
P1をクリックし、左にあるグリッドのようなマークをクリックします。するとPerformerの設定画面が出てきますので、画面左上にあるRemoteと書いた電源ボタンマークをクリックしてオフにします。これで低い方の鍵盤が鳴るようになります。
シンセの下段にあるオレンジ色の12個の数字は?
これはPerformer用のパターン集のようなものです。なかなか凝った仕組みになっているので解説するのは難しいのですが、ざっくり言うと、Performerで作ったパターンを各数字(1〜12)に割り当てておき、特定の動作によってそれらを呼び出せる機能です。P1の左にあるグリッドのようなマークをクリックすると、Performerの詳細な設定ができる画面が現れます。ここで並んだボックスの横列は12個あり、オレンジ色の数字12個にそれぞれ対応しています。縦列の三段は上から順にP1、P2、P3に対応しています。
例えばP1の数字1から4までを使用し、パターンを組むとこんな風になるでしょう。そしてこれらのパターンを任意に呼び出すためにはキースイッチ方式を使用します。Remoteボタンをオンにすると、Remoteバーで指定されている範囲のキーがスイッチとなります。例えばC0がPerformerの数字1を呼び出し、F0が数字6を呼び出す、といった具合です。これによってP1のさまざまなバリエーションを作ることが可能になるため、モジュレーションの幅が大きく広がります。
Routing画面のMod1、Mod2とは?どう使う?
これらはモジュレーターですが、そのままでは役に立ちません。モジュレーション・ソースを白い四角の部分にドラッグしてから線をつないで使用します。例えばLFOをドラッグしてアサインすると、LFOモジュレーターとして使用できるようになります。
Modulation EnvelopeとExciter Envelopeの違いは?
Modulation Envelopeは、文字通りモジュレーションに使用するためだけの「普通の」エンベロープです。一方、Exciter Envelopeの方は普通のエンベロープではなく、「音が鳴る」エンベロープです。試しにRouting画面で全ての線を外し、Exciter Envelopeだけをそのままアウトプットへつないでみてください。この状態で鍵盤を叩くと音が鳴るはずです(厳密に言うとModulation Envelopeでも音は鳴るのですが、とても小さいので音として使えるレベルではありません)。
この「音が鳴る」エンベロープはComb Filterへの入力信号として使用すると便利です。オシレーターをまったく使わずに音を鳴らすことが可能になるため、音作りの幅が広がっていきます。興味がある方はMassive Xのファクトリープリセットの中から”Bird Box”という名称のものを見てみてください(下記画像)。Routingを開いて確認すると、オシレーターを使わずに音を作っているのがわかると思います。
あるいは、「普通の」Modulation Envelopeを使うところであえてExciter Envelopeを使ってみるのも面白いかもしれません。アウトプットのボルテージが大きいので、非常にアタックの強い音が作れると思います。
VRとは?
これは「アナログ」的な質感を出したい時に使うモジュレーターです。ランダマイザーのようなものだと思いますが、ただのランダムではなくアナログ機材風の微妙な揺らぎの挙動をシミュレートしているということでしょうか。詳細は明かされていないため現時点ではわかりません。いずれにせよ、オシレーターやフィルターの周波数などに隠し味としてアサインする使い方がメインになると思います。このようにデジタル・シンセサイザーにこのような独立した「アナログ」機能が付いているのは面白い試みだと思います。
ゴリラってなに?
すみません。
おわりに
Massiveが世に送り出されたのは2007年、そこからすでに10年以上が経過し、ソフトウェア・シンセサイザーを取り巻く状況も大きく変わりました。今や大小様々なメーカーが技術を競い合うように参入し、全体のクオリティが底上げされ、素晴らしい製品が世に(そしておそらく皆のPCの中に)あふれています。この加熱するシンセサイザー市場にMassive Xが再び革命を起こせるのか、注目している人も多いのではないでしょうか。
個人的な感触ですが、Massive Xは革命的な新機能や斬新さが売りというよりもむしろユーザーフレンドリーで使い勝手の良い、「かゆいところに手がとどく」ようなシンセサイザーを目指して作られているように思いました。それゆえにいっそう、ローンチ時にマニュアルが無いのは残念です。わかりにくいシンセという印象を与えてしまうのはMassive Xにとっても本意ではないでしょう。
しかしまだ発売したばかりなのでこういった評価を下すのは早すぎるかもしれません。これからGUIのアップデートやファクトリープリセットの追加なども控えているという話も聞きますし、ますますMassive Xの進化から目が離せません。
次世代を担うシンセになれるのか、おおいに期待したいところです。