リバーブのDiffusionパラメーターについて翻訳記事&ざっくり解説!

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リバーブでよく見るDiffusionというパラメーター。これってなんなのかイマイチわかりにくくないですか?リバーブの長さやプリディレイならわかるけどDiffusionって…。

というわけで調べていたら、ValhallaRoomなどを作っているプラグイン作者のシーンさんのブログに解説を見つけました。歴史や技術についてシンプルに説明している良い記事だと思ったのでそちらを翻訳&解説してご紹介します。

 

記事を見る前に…

前提知識になりますが、英語のdiffusionとは「拡散」とか「散らばること」という意味です。fusionがひとつにまとまることなので、diffusionはその逆です。

一般的なイメージとしては

Diffusionの値が高い=リバーブの音が空間の中で四方八方に反響して広がっている状態

Diffusionの値が低い=リバーブの音が小さくまとまっている状態、散らばっていない状態

です。

それをふまえた上で以下の翻訳記事をご覧ください。

 

リバーブのDiffusion、オールパス・ディレイ、金属的ノイズについて

Diffusionコントロールはリバーブ・アルゴリズムの中でとてもありふれたものの一つです。これはふつう、反響音の密度を高めるものとして説明されています。初期反響音の密度を高める(Lexiconのアルゴリズム)か、あるいは反響音の密度が徐々に高まっていく際の比率を高めるかのいずれかです。LexiconのLXP-15のマニュアルにはDiffusionパラメーターに関していくぶん典型的な説明が載っています。

Diffusionとは

初期反響音の密度が徐々に高まっていく度合いをコントロールします。高い値に設定すると密度が大きく増加し、低い値に設定すると密度の増加は低く抑えられます。反響音の密度はSizeパラメーターの影響を受けます。狭い空間ほど音がより密集します。パーカッションを良く響かせるにはDiffusionの値を高く設定してください。よりクリアで自然なボーカルや、ミックス全体、またはピアノに対してはDiffusionの値を中くらいまたは低く設定してください

もしあなたがリバーブ製品のマニュアルをたくさん読んだなら、Diffusionコントロールに関してこれと似たような記述をよく目にするでしょう。クリアなボーカルには低いDiffusionの値を推奨するというのもおなじみの記述です。でも、それはなぜでしょうか?現実の部屋やホールでは、通常その空間に置かれている物体(いす、家具類、込み入った壁のパターンなど)のせいで、Diffusionはとても高いレベルから始まる傾向にあります。それならば、反響音の密度は空間に送られる信号の特性ではなくて、空間そのものの特性ではないか、と思われるかもしれません。

その答えは初期反響音の高い密度を作り出すために使われた信号処理の手法にあります。マンフレッド・シュレーダー(Manfred Schroeder)は1962年のAESゼミナールの論文『自然な響きの人工リバーブ』の中で、とても短いフィードバックディレイを直列につなげて利用し反響音の密度を高めることを論じています。シュレーダーは一連のディレイが「フラットな」周波数特性をもつような、フィードバック/フィードフォワードのとても巧みな手法を発展させました。そのディレイユニットはオールパス・ディレイと呼ばれています。

1970年代の後半、ジェームズ・ムーレー(James Moorer)がオールパス・ディレイの改良バージョンを発表しました。これは重ねがけを少なくしたものですが、今日ではより広く使われています。

EMT-250やLexicon 224など最初期の商用デジタル・リバーブは、反響音の密度を高めるためにリバーブ・アルゴリズムのインプット部において直列にしたオールパスを利用していました。Lexiconはインプットのオールパスの係数をユーザーが直接コントロールできるようにした最初のメーカーであり、これを「Diffusion」コントロールと名付けました。この慣習はオーディオ産業の間に瞬く間に広がりました。

直列にしたオールパス・ディレイによって反響音の密度を作り出すことの問題点は、「オールパス」の定義そのものに由来します。オールパスはその仕組み上、すべての周波数を等しい音量で時間をかけて通過させます。ある特定の周波数がオールパス・ディレイをいつ通り抜けて出てくるのか、何の保証もありません。実際、オールパス・ディレイはフラットな音ではありません。コムフィルターによく似て、短いインパルス的な音を単一のオールパス・ディレイに通過させると、特定の周波数のみが共鳴している箇所で「鈴鳴り[ringing]」のような音が生じます。直列にした複数のオールパス・ディレイにインパルス信号を通過させると、金属的な減衰音が生じます。

打楽器では、金属的な音の色つけは許容できるトレードオフかもしれません。反響音の密度が低すぎるときに生じる「カタカタ」する音に比べればマシです。それに、スネアはもともと金属的な音の色つけを持っているので多少その色つけが多少増えるのはよいでしょう。一方ボーカルでは、短いオールパス・ディレイによって生じる色つけはとても不快なものです。ふつうボーカルは「滑らか」な、連続した信号として感じられますが、声門から生み出される実際の波形はパルス波にとても近く、直列のオールパスでリンギングを鳴らす原因になります。これは男性ボーカルにおいて顕著です。

直列のオールパスによって生じるこうした問題はいくつかの方法で解決可能です。

・金属的な音の色つけを受け入れて、何重もの直列のオールパスを使用し、結果的に生じるアルゴリズムをプレート・リバーブと名付ける方法。これはかなり一般的なアプローチです。大部分の「プレート」アルゴリズムは実際の物理的なプレートとはほぼ無関係で、ただ高密度な初期反響音といくぶん金属的な音を伴っているだけのものです。

・インプット部の直列にしたオールパスの数をより少なくする方法。こうすると色つけは排除できますが、初期反響音の密度は低くなってしまいます。「ホール」アルゴリズムの多くはこの手法を使っています。

・より多くの直列にしたオールパスを使う方法。これは、レゾナンスの数が多ければ結果として金属的な音をぼかせるという発想に基づいています。上手くいきますが、ただし直列にしたオールパスを数多くつなげたことの副産物としてアタック・タイムが伸び、音が「フェードイン」するかのようになってしまいます。趣味に合えば素晴らしい音だといえますが、小さな部屋をシミュレートするのには向きません。

・オールパス内部でディレイの長さをモジュレートする方法。オールパスを複数つなげて長くした場合には色つけを減らすのに役立ちます。しかしインプット・Diffusionセクションで用いるオールパスが短い場合、目立ちすぎるコーラス風の音が生じてしまうか、あるいは金属製のフライパンのなかで水がパシャパシャいうような音が生じてしまいます。

・オールパスディレイの係数を減らす方法。色つけは減りますが、反響音の密度も減ってしまいます。

ここからがDiffusionコントロールが役立つところです。あらゆる信号に対してそこそこ程度の結果しか出せず、すばらしい結果になることは全くないような妥協案を採用するかわりに、Diffusionコントロールを使えば常にユーザーがアルゴリズムを調整して入力信号に合わせることができます。それは反響音の密度と色つけのバランスを取ることをエンドユーザーに任せ、アルゴリズムの作者はそこに関わらないということです。Diffusionコントロールの働きを知ることで、エンドユーザーはリバーブを自分用に上手く掛けることができるわけです。

これは理想的な解決策でしょうか?おそらくそうではないでしょう。しかし、1970年代後期におけるハードウェア・プロセッサーの限界や、今日における低CPU負荷のプラグインを考慮すると、まあまあ効果的な解決策であると言えそうです。

via

※太字はすべて訳者。

 

解説と感想

以上がシーンさんの記事です。歴史的・技術的な経緯がシンプルにまとめられていて参考になるのではないでしょうか。

さっくりポイントを解説しますと、

  • Diffusionはもともと1970年代にLexiconが作ったパラメーターで、それが他社にも広まった。
  • リバーブはたくさんのディレイ音を鳴らして作られている。初期のデジタルリバーブはそのディレイ音をオールパス・フィルターで作っていた。
  • Diffusionはオールパス・フィルターの数を増やすためのパラメーター。数が増えるほどディレイ音が多くなるので、「散らばった」感じになる。これがDiffusionの値が高い状態。
  • オールパス・ディレイの数が多すぎても少なすぎても問題が起きる。どのような値が良いかはユーザー自身がDiffusionパラメーターで決める。

といった感じです。

個人的に面白いと思った小ネタは、最初期のLexiconリバーブのマニュアルの中に「パーカッションはDiffusion高め、ボーカルはDiffusion低めがおすすめ」的なことがすでに書いてあるという事実です。この説明は今現在発売されているリバーブプラグインのマニュアルにもよく書いてありますし、ネットで調べれば同じことを書いているサイトはいくらでも見つかります。

その背景は意外と古かったのですね。Lexiconのマニュアルがその後何度も参照され、今でもDiffusionといえばこうするべきというようなお決まりのパターンになっていったと考えると面白いです。

そして、そのようなパーカッションとボーカルの使い分けをするのはなぜかと言えば、Diffusionでノイズが出るからだというのです。

これってかなり意外な話ではないでしょうか??

Diffusionはリバーブの音の拡散具合をコントロールするパラメーターなので、「パーカッションにはDiffusionの値を高くするのがいい」というのは、要するに「拡散したリバーブ音の方がパーカッションに合っている」という話だと思うはずです。少なくとも私は今までそう思っていました。ところが、そういう話ではなかったのです

そうではなくて、単にDiffusionを高くすると金属っぽいノイズが出てくるから、それをパーカッションに掛けた方がまだマシに聞こえるということだったのです。そのような金属ノイズはボーカルには合わないけれど、パーカッションならそこそこ合うだろうというのが使い分けの根拠です。

逆に、Diffusionの値が低すぎると「カタカタ」という音が鳴り始めるので、リズム感が大切なパーカッションには合わないということなのでしょう。しかし音が連続しているボーカルであれば、そのような「カタカタ」はパーカッションよりも目立たないでしょう。

 

最後に

そう考えると、現在の進化したリバーブでこの話はそのまま当てはまらないのでは?と思ってしまいます。

リバーブ・アルゴリズムにオールパス・フィルターを多用していたのは初期の頃話で、今はもっと洗練された解決策が取られているでしょう。ですから、上記のような「パーカッション=Diffusion高め、ボーカル=Diffusion低め」というアドバイスを鵜呑みにするのはよくないのではないかと思います。

月並みな感想になってしまいますが、やはり背景知識を調べて理解することは、道具を使用する上で大切だなあと思います。

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